米が炊けるまでの話
新宿フュージョン

9月26日(土)、スペシャルアザーズの夜です。

 

 

今日は日が沈むと共に気持ちも沈んだので、

久しぶりに新宿に行ってきた。

 

 

私は20代の90パーセントを新宿で過ごしたので、

新宿にはピチピチだった頃の私の残像がうごめいている。

彼らを見つけ今の自分に同化するとちょっとした吹き出物なら治ってしまう。

 

 

久しぶりの新宿は空気が澄んでいて、深呼吸するたびに私のよどんだ心を浄化するようだった。

都会の空気が澄んでいるわけないじゃないと思うかもしれないが、

自分が好きで過ごした環境ほど呼吸のしやすい場所はない。

私にとって新宿は酸素カプセルである。

 

 

お腹が空くまでスケッチすることにした。

裏通りの自転車やバイク、レストランにいる女性、宝くじ売り場。

スケッチは楽しく描くに限る。

自転車は盗難車のように描き、レストランにいる女性は二時間前に男をふったように描く。

 

 

しばらく経っておなかが空くと同時に雨が降ってきた。

地球は大きな胃袋で雨は胃液なのかもしれない。

 

 

西口のしんぱち食堂であじの開き定食と納豆と生卵とビールを頼んだ。

客は4人しかいない。向かいの客は私の残像だったので実質3人である。

私以外女性だった。みんな鮭ハラスの油で唇がテリテリである。

これ以上美しいものはない。

 

 

しんぱち食堂は定食を頼むとビールが150円になる謎のスーパーデフレが起きる。

もはやハイボールなら逆に金が貰えるかもしれない。

 

 

店を出ても雨は降ったまま。

残像と同化して傘をささずに帰った。

 

 

おやすみ日本

 

 

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カナダグースララバイ

9月25日(金)、ユナイテッドアローズの夜です。

 

 

今日はもはや涼しいを通り越して肌寒い1日だった。ほぼ冬である。

秋はグリーンウェルだったのか。

まあ何にせよそろそろカーディガンの一枚でも引っ張りださないと風邪を引きそうだ。

 

 

私はもう10年くらい同じカーディガンを気に入って着ている。

穴が開いても縫って着るほどご執心なのでついにカーディガン側からも愛され始め、

この男を全力であっためてやろうと思っているのか

年々驚くほどに保温性が上がっている。

体感はモンクレールのダウンジャケットとほぼ同じである。

 

 

関西の友人に秋の鳥取砂丘に観光にでも来たらどうですかと言われたので

もし行くのならこのカーディガンを羽織っていく。

友人は私のこの奇跡のカーディガンを知らないので

そんな格好で来たら死にますよと忠告してくれた。

 

 

いい友人を持ったなと思う。

 

 

おやすみ日本

 

 

 

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シャッターチャンス

9月23日(水)、200円引きパック寿司の夜です。

 

 

9月も終盤に差し掛かり、日中も随分涼しくなった。

解答用紙に残暑と書いても丸がもらえるか怪しい。

そろそろ秋が大手を振って環七を練り歩く頃合いである。

 

 

もう近場では蝉の声が聞こえなくなった。

あんなにやかましいのにいざ聞こえなくなると寂しいものだ。

 

 

その寂しさを癒すかのように秋の虫が代わって鳴き始めるのだが、

この秋の虫の鳴き声は夏にとって我々でいうところの

蛍の光なのではないかしらと思っている。

ゆっくりと夏のシャッターが降りていくのが今なのだ。

 

 

このシャッターが降りきってしまう前に向こう側に滑り込んでみたい。

 

 

おやすみ日本

 

 

 

 

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脳林水産省

9月19日(土)、煮干し拉麺の夜です。

 

 

9月も半ばを越えたとはいえ、日中はまだまだ暑い。

秋優勢の土俵際、夏が持ちこたえているようだ。

 

 

もう朝起きても窓の向こうからセミが鳴くことはなくなったが、

自転車で5分も走らせれば添え物のような林があって、

そこではまだ生き残りが旺盛に鳴いているのを聞くことができる。

5分とはいえこちらから赴くのだからもはやライブである。

 

 

夕暮れになると今度は秋の虫が鳴くようになって、

この曖昧な季節のトリを毎晩飾っている。

 

 

私は夜中に出歩きたい人間だから、これくらいの季節、気温が最適である。

これ以上暑いとドアノブが重いし、これ以上寒くてもドアノブが重いのだ。

 

 

つい先日も夜中の2時を回って外に出た。

自転車は使わずに歩いてそこいらを歩き回る。

頭の中がうるさいものだから、なんだかブツブツ喋りながら歩く。

言語化して吐き出すことで少し軽くなるような気がするのだ。

 

 

しかしまあ、頭の中というのはなぜこうもうるさいのか。

先日なにかの記事で米倉涼子のCMがうるさくてクレームが入ったとかなんとか言っていたが

何言ってやがんだと思う。頭の中の方がよっぽどうるさかろうが。

 

 

これ以上オンラインのものなど他になく、だからって他人がアクセスしたり共有ができないから

オーバーヒートを起こすのだろう。

少なからず伝達はできても処理するのは自分しかいないのだ。

 

 

この季節の蝉のように、こちらから赴いてようやく聞ける余裕が欲しい。

 

 

おやすみ日本

 

 

 

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六本木

8月14日(金)、クーギャラリーの夜です。

 

 

8月の頭、装丁家の坂川栄治さんがご逝去された。

先月が誕生日でお祝いのメッセージを送ったばかりである。

SNSも亡くなる前日まで普通に更新されていたとのこと。

 

それでもう天国にいるのだから、天国とは随分近いところなのだなと思う。

 

 

私はご生前、とてもお世話になった。

今夜はひとつ、思い出話を書こうと思う。

 

 

3年前、坂川さんのギャラリーで個展を開いたときの事だ。

初日の夜、ギャラリーを閉める時間になると坂川さんが夕食に誘ってくれた。

 

 

タクシーで六本木まで向かい、テレビ朝日を裏手に回ったところで降りた。

大きな体でスタスタ歩いていく坂川さん。

縦にも横にも大きい人なんだけれど、歩くのが思いのほか速い。

 

 

繁華街を背にして、静かな住宅地の方へと向かう。

 

「こんなところにお店なんてあるんですか」

 

「いいから黙って着いてこい」

 

「いやー暗い道だなー」

 

「うるさいなー」

 

なんて言ってるうちに三階建のとある建物の前に着いた。

地下に続く階段を降りるとそこにはお洒落なイタリアンレストランがあり、

迎えてくれたシェフは坂川さんの息子さんだった。粋なサプライズである。

 

 

カウンター席に案内されて2人並んで座る。

ちょうどキッチンから料理が出てくる目の前の席で、ベストロケーションである。

私の座った席には先週は女優の誰それが座っていたところだなんて言うので

一度全神経をおしりに集中させて味わった。

 

 

白ワインで乾杯し、私にはメニュー表がヒエログリフに見えるのですべて坂川さんにお任せした。

次々に見た目も味も最高の料理が運ばれてくる。

フォークとナイフの使い方がおぼつかない私と、慣れた手つきで綺麗に食べて魅せる坂川さん。

そうかと思うと、急に向こうの団体客はおそらく医者の合コンだとかなんだとか色のある話を放り込んでくる。

 

 

最後はエスプレッソでしめて感無量の私に

「今度はデートで連れてきな」と言って笑っていた。

 

 

 

 

 

 

それから展示のたびにギャラリーに顔を出すようになって、

西日の差す中お茶を飲みながら話す時間がとても好きだった。

こんな私にも気さくに接してくれて、本当に嬉しかった。

 

 

 

あの大きな体いっぱいに、隙間なく愛の詰まった方でした。

 

 

 

坂川栄治さん、本当にありがとうございました。

 

 

 

おやすみ日本

 

 

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