米が炊けるまでの話
途中芸者
 
何がっくりゲッソリしてんだい?

僕には遠くに忘れてきたものがあるんです。

ふーん。こっから見えないのかい?私はたまたま双眼鏡をもっているんだが、貸してあげようか?

そんなもので見えるならとっくに取りに行ってますよ。

そんなものとは失礼だな。いいやつだよこれ、ニコンのやつだし。1万2千円。

それはいい買い物をしましたね。

貸してあげよう。

物の貸し借りはするんじゃないっていう教育の下に育ったので。

発育の悪い教育だな。

185センチです。

見かけ倒しめ。

あなたに心が見えるとは思いません。

心は会話の上に顔を出すんだよ。

僕の心は引っ込み思案ですから。

なるほど。それで君は表面をさらう様な事しか言えない軟弱なやつなんだな。

ええ、何とでも言えばいいです。

君の耳は自分に都合のいい事しか受け付けないんだね。差し当たり君の声だけかな?
耳元には愛想の良い受付の女性を置いておいた方が双方得がある事をそろそろ知ったらどうだい?

なぜそんなに僕に突っかかるんですか!

君ががっくりゲッソリしているからさ。心配してんのよ。

じゃあほらそれ貸して下さいよ。ほら!早く貸せってんだよ!

私も双眼鏡も優しく扱ってくれたまえ。

ほら!今僕は双眼鏡を覗いてるぞ!?僕の忘れて来たものの欠片すら見えない!欠片すらね!だから僕に構うんじゃないよ!あっちに行け!あっち行けーーー!!!!!!!
何だって余計な事を!何だって余計な事を…ううぅ…ひっく…ひっく…

何もしないよりマシだと思ったのさ。それと君、鼻水で双眼鏡を汚さないでくれたまえ。

早くあっち行けよぉ…うう…

もうやめにしないかい。君は悪くない。君の心の眼が、遠く形のないものを見つけようとするから悪いのだ。そしてその心の持ち主は君なのだから、引いてはそんな心を放っておく君が
悪い。

どっちなんだ!

決着を付けようじゃないか。君は心を大事にしているつもりかもしれないがまったくもってそんなことはない。また、君の心も君を大事にしているつもりかもしれないがまったくもってそんなことはない。私に言わせれば君はチンカスだね。

打ちひしがれて僕はそろそろ死ぬぞ?

君はチンカスのまま死んでいくのかい?

それは嫌だ!じゃあどうしろってんだ!

双眼鏡を貸してあげよう。

さっき貸りたよ!見たよ!見えなかったよ!

双眼鏡は読んで字のごとく、二つ眼があるよ。

だから何だ!

コレをポッキリ二つに折ってだね…

ああ!

一つは君の眼で、もう一つは君の心の眼でもう一度君の忘れて来た物を、その方角を、その記憶を覗いてごらんよ。

心の眼って…どうやって?

どうにかしたまえ。君の心なんだから。他人はいつだって提案しか出来ないのさ。僕はそのうちに日替わりサブウェイを食べてくるからね。君にもコーラを買ってきてあげるね。

何なんだあの人は…





どうだい?見つかったかい?

何も見つからないよ…

そうかい、そうだろうね。

何だいその言い方?

だって君は何も忘れていないじゃないか。

何を言う!僕は忘れてきたんだ!

置いて来たんだよ。

!?

だから、君は遠くに置いて来たんだろ?忘れたわけじゃない。君は自分の意志で遠くに置いてきた。きっと大事なものだったんだろう。君は丁寧に箱に入れて記憶に保管しようとしたんだ。いい思い出としてね。

何言ってんだ!

ところが君は箱に「忘れ物」と書いてしまった。それがまずそもそもの間違いだったね。時が経ち、君と君の心の距離が離れていった。君は前進しようとしたが、心は箱が気になった。大事なものが入っているその箱が。しかし、箱には「忘れ物」と書いてあるじゃないか。他でもない君が書いたんだがね。でも君の心はそれに気が付かない。


黙れ黙れ黙れ黙れ!


君はつまり、遠くに置いて来た大切なものを入れた箱に「忘れ物」と書いたことを忘れてしまったんだ。いや、本当のところはわからないけれど。ただ君は無意識にも、その箱の中身を忘れたかったんだろうね。それほど箱の中身は善くも悪くも大切なものって事さ。

もうやめてくれ!

ただ君は、そう、箱から遠くまで歩いてきたのさ。これは事実だ。だから言うけどね、君はここまで来る前に、まだ近い時点で箱を開ける為に引き返すことが出来た。誰も止めやしないよ?でも君はそれをしなかったんだ。それは他でもない、君の意志だ。「忘れ物」と書いたにも関わらず、君はそれを取りに帰らない事を決めたんだろう?結果、君はいい思い出になりきれなかったその箱にいつまでも心を引っ張られる事になった。これは完全に自己責任だ。その上で、君が今の現状、がっくりゲッソリしている要因にそれを上げる女々しさたるや何たる事なの?引き返さなかった時の君の意志を裏切るような事をするんじゃないよ!

認めるよ…僕はチンカスだ!

ふざけるな!チンカスに謝れ!

そこまで落ちたか!

しかし今自分の否を認めた事で近いうちに…ははは。

何笑ってんですか。

いや、皆まで言う前に会話の上に君の心が出て来たよ。ははは。

それがそんなにおかしいですか?

いや、君の心が双眼鏡持ってんのさ。

はあ…何見てんのかな?あれ…僕にも見えるぞ?

君と心のピントが合ったみたいだね。何が見える?

女の子だ…

女の子?

ええ、はっきりくっきりと見えますよ…

それで?

何か歌い出しそう…

聴こうじゃないか。意味があるぞきっと。

…そういえばコーラは?

静かに!







おやすみ日本。


新夜便 comments(2) trackbacks(0)
Comment








おちがええね。w
あたしにも見えたよ。忘れ物の箱と女の子・・・。
勢いがないようである感じがいい!!わろた。
from. yukino | 2012/05/23 17:50 |
わおー♪南半球からコメントありがとー☆

見えた?よかったぜー☆
元気が出る女の子よねー♪
from. おや日 | 2012/05/25 14:44 |
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