米が炊けるまでの話
六本木

8月14日(金)、クーギャラリーの夜です。

 

 

8月の頭、装丁家の坂川栄治さんがご逝去された。

先月が誕生日でお祝いのメッセージを送ったばかりである。

SNSも亡くなる前日まで普通に更新されていたとのこと。

 

それでもう天国にいるのだから、天国とは随分近いところなのだなと思う。

 

 

私はご生前、とてもお世話になった。

今夜はひとつ、思い出話を書こうと思う。

 

 

3年前、坂川さんのギャラリーで個展を開いたときの事だ。

初日の夜、ギャラリーを閉める時間になると坂川さんが夕食に誘ってくれた。

 

 

タクシーで六本木まで向かい、テレビ朝日を裏手に回ったところで降りた。

大きな体でスタスタ歩いていく坂川さん。

縦にも横にも大きい人なんだけれど、歩くのが思いのほか速い。

 

 

繁華街を背にして、静かな住宅地の方へと向かう。

 

「こんなところにお店なんてあるんですか」

 

「いいから黙って着いてこい」

 

「いやー暗い道だなー」

 

「うるさいなー」

 

なんて言ってるうちに三階建のとある建物の前に着いた。

地下に続く階段を降りるとそこにはお洒落なイタリアンレストランがあり、

迎えてくれたシェフは坂川さんの息子さんだった。粋なサプライズである。

 

 

カウンター席に案内されて2人並んで座る。

ちょうどキッチンから料理が出てくる目の前の席で、ベストロケーションである。

私の座った席には先週は女優の誰それが座っていたところだなんて言うので

一度全神経をおしりに集中させて味わった。

 

 

白ワインで乾杯し、私にはメニュー表がヒエログリフに見えるのですべて坂川さんにお任せした。

次々に見た目も味も最高の料理が運ばれてくる。

フォークとナイフの使い方がおぼつかない私と、慣れた手つきで綺麗に食べて魅せる坂川さん。

そうかと思うと、急に向こうの団体客はおそらく医者の合コンだとかなんだとか色のある話を放り込んでくる。

 

 

最後はエスプレッソでしめて感無量の私に

「今度はデートで連れてきな」と言って笑っていた。

 

 

 

 

 

 

それから展示のたびにギャラリーに顔を出すようになって、

西日の差す中お茶を飲みながら話す時間がとても好きだった。

こんな私にも気さくに接してくれて、本当に嬉しかった。

 

 

 

あの大きな体いっぱいに、隙間なく愛の詰まった方でした。

 

 

 

坂川栄治さん、本当にありがとうございました。

 

 

 

おやすみ日本

 

 

新夜便 comments(0) -
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>