米が炊けるまでの話
脳林水産省

9月19日(土)、煮干し拉麺の夜です。

 

 

9月も半ばを越えたとはいえ、日中はまだまだ暑い。

秋優勢の土俵際、夏が持ちこたえているようだ。

 

 

もう朝起きても窓の向こうからセミが鳴くことはなくなったが、

自転車で5分も走らせれば添え物のような林があって、

そこではまだ生き残りが旺盛に鳴いているのを聞くことができる。

5分とはいえこちらから赴くのだからもはやライブである。

 

 

夕暮れになると今度は秋の虫が鳴くようになって、

この曖昧な季節のトリを毎晩飾っている。

 

 

私は夜中に出歩きたい人間だから、これくらいの季節、気温が最適である。

これ以上暑いとドアノブが重いし、これ以上寒くてもドアノブが重いのだ。

 

 

つい先日も夜中の2時を回って外に出た。

自転車は使わずに歩いてそこいらを歩き回る。

頭の中がうるさいものだから、なんだかブツブツ喋りながら歩く。

言語化して吐き出すことで少し軽くなるような気がするのだ。

 

 

しかしまあ、頭の中というのはなぜこうもうるさいのか。

先日なにかの記事で米倉涼子のCMがうるさくてクレームが入ったとかなんとか言っていたが

何言ってやがんだと思う。頭の中の方がよっぽどうるさかろうが。

 

 

これ以上オンラインのものなど他になく、だからって他人がアクセスしたり共有ができないから

オーバーヒートを起こすのだろう。

少なからず伝達はできても処理するのは自分しかいないのだ。

 

 

この季節の蝉のように、こちらから赴いてようやく聞ける余裕が欲しい。

 

 

おやすみ日本

 

 

 

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六本木

8月14日(金)、クーギャラリーの夜です。

 

 

8月の頭、装丁家の坂川栄治さんがご逝去された。

先月が誕生日でお祝いのメッセージを送ったばかりである。

SNSも亡くなる前日まで普通に更新されていたとのこと。

 

それでもう天国にいるのだから、天国とは随分近いところなのだなと思う。

 

 

私はご生前、とてもお世話になった。

今夜はひとつ、思い出話を書こうと思う。

 

 

3年前、坂川さんのギャラリーで個展を開いたときの事だ。

初日の夜、ギャラリーを閉める時間になると坂川さんが夕食に誘ってくれた。

 

 

タクシーで六本木まで向かい、テレビ朝日を裏手に回ったところで降りた。

大きな体でスタスタ歩いていく坂川さん。

縦にも横にも大きい人なんだけれど、歩くのが思いのほか速い。

 

 

繁華街を背にして、静かな住宅地の方へと向かう。

 

「こんなところにお店なんてあるんですか」

 

「いいから黙って着いてこい」

 

「いやー暗い道だなー」

 

「うるさいなー」

 

なんて言ってるうちに三階建のとある建物の前に着いた。

地下に続く階段を降りるとそこにはお洒落なイタリアンレストランがあり、

迎えてくれたシェフは坂川さんの息子さんだった。粋なサプライズである。

 

 

カウンター席に案内されて2人並んで座る。

ちょうどキッチンから料理が出てくる目の前の席で、ベストロケーションである。

私の座った席には先週は女優の誰それが座っていたところだなんて言うので

一度全神経をおしりに集中させて味わった。

 

 

白ワインで乾杯し、私にはメニュー表がヒエログリフに見えるのですべて坂川さんにお任せした。

次々に見た目も味も最高の料理が運ばれてくる。

フォークとナイフの使い方がおぼつかない私と、慣れた手つきで綺麗に食べて魅せる坂川さん。

そうかと思うと、急に向こうの団体客はおそらく医者の合コンだとかなんだとか色のある話を放り込んでくる。

 

 

最後はエスプレッソでしめて感無量の私に

「今度はデートで連れてきな」と言って笑っていた。

 

 

 

 

 

 

それから展示のたびにギャラリーに顔を出すようになって、

西日の差す中お茶を飲みながら話す時間がとても好きだった。

こんな私にも気さくに接してくれて、本当に嬉しかった。

 

 

 

あの大きな体いっぱいに、隙間なく愛の詰まった方でした。

 

 

 

坂川栄治さん、本当にありがとうございました。

 

 

 

おやすみ日本

 

 

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昆虫見舞

8月6日(木)、冷汁の夜です。

 

 

ようやく梅雨が明け、朝から嬉しそうにセミが鳴いている。

なかには友達と喧嘩して泣いているセミもいるのかもしれないけれど、

とにかく夏らしい夏がやってきたのだ。

 

 

先日、夜中にコンビニへ行った帰りに道の真ん中でひっくり返っているカブトムシを見つけた。

飛行中に電柱にでもぶつかって脳震盪でも起こしているのか、大の字になって動かない。

電灯のスポットライトを浴びて、マクベスのワンシーンにも見える。

指先でつつくとまだ生きているので、轢かれないように道の端に寄せてやった。

 

 

ただこういう時、いつも迷うことがあって「君は一体どうしてほしいんだい?」ということだ。

本当はこのままにしておいてほしいのかもしれないし、高輪ゲートウェイに連れていって欲しいのかもしれない。

私には彼らの言葉がわからないので、なんだかもどかしい気持ちになる。

 

 

 

東京には自然がないなんて言われがちだが、

それでもこうして夜中のカブトムシに歯がゆさを感じたり朝起きれば蝉が鳴くのを聴ける。

たしかに田舎と比べればここいらの自然なんてハンバーグプレートのパセリくらいのものだろう。

だがその小さな環境で各々が儚くも力強く生きているのだ。

 

 

これまた先日、気分転換にあてもなく自転車を漕いでいると川沿いに出た。

住宅地の真ん中を通る小さな河川だが、つたって行くと時折近所の子供達が水浴びをしている。

綺麗な川なのだ。そんな風景を横目に見ながら行けるところまで行くと大きな公園に着いた。

 

 

自転車を止め、膝のあたりまで草の生い茂る道を歩いていく。

向こうに見える木々からは蝉の声。ウスバカゲロウの綺麗な羽。

マイナスイオンのジャスコである。

体が「おい碾法△海譴世茵△海海僕茲燭ったんだよ」と伝えてくるのがわかった。

それと同時に、これはあのカブトムシの声かもしれないと思って少し申し訳なくなった。

 

 

 

おやすみ日本

 

 

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